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母と父

執筆者の写真: LuminaLumina

母が旅立った。

わたしは深い深い安堵を覚えた。


終わったんだ。





数日は、母を思い出しては、

笑ったり、涙していたりした。


まったく予測していなかった感情のようなものもあった。

もう生きている意味がないように感じる自分がいた。


母はわたしの生きる意味だったのだ。





母は、女王だった。

父をしもべ、召使い、お手伝いさんと呼んでいた。


学校の参観日も面談も行ったことがない。

面談は先生を家に呼びつけていた。


借金は返さない。

母は返すからと言って借りていない。

「悪いようにはせんで(しない)」と言っていた。



母は、面白い人だった。

買い物は、スーパーに電話して、あれとこれを準備しておいてと

言ってタクシーにお使いに行かせていた。


テイクアウトなどやっていないレストランに取りに行くからと

食事を作ってもらい、やはりタクシーに取りに行かせていた。


病弱だからと毎日医者に通い

あれとこれの注射してちょうだいと自分で注文していた。

先生の言うことは全く聞いてない。


薬が大好きで毎月10万円分ぐらい市販の薬を飲んでいた。

ホステスだったので、アルコールと一緒に飲んで

たびたびオーバードーズしていた。


タクシーから降ろされ、道に転がたまま叫んでいたこともある。

中島みゆきさんの歌に「道に倒れて誰かの名を呼び続けたことがありますか~~」

の歌そのままだった。


コンクリートの階段の上から下まで転がり落ちたことも

たびたびあるがいつも擦り傷程度だった。


それでも自分は体が弱いと言っていた。



わたしがいないときに

わたしのともだちを呼びつけて、よく肩をもませていた。

 

家に帰ってこないこともしょっちゅうあった。

長い時は一か月以上。お前は大丈夫と呪文を残して。

おかげでわたしは目覚めることになる。



母は、感情表現が豊かで愛情深い人だった。


ある夜、母が仕事から帰宅し、父が帰っていなかった。

母は激怒し「オンナのところだろ~!!」と

ダイニングのイスを窓に投げつけて割り、

父の荷物を割れた窓ガラスからすべて外に放りだした。

 

朝方帰ってきた父が荷物を片付ける中、

わたしも一緒に放り出されたランドセルをひろって学校へ行った。

父とわたしは目くばせだけして言葉は交わさなかった。

父は笑っていた。



母は、ドラマを見ておいおいと泣き、

虫を見てはぎゃーぎゃーと叫び、

その一方で妙に肚が座っていた。


わたしが警察に補導されたとき、迎えに来るように言った警察に対して、

「なんで、わしが迎えにいかなくちゃならん。アンタが勝手

に捕まえたのだからアンタが連れてきなさい。」と言ったらしく

警察官に「お前の母親はどういう母親なんだ?」と言われたことがある。


母の女王ぶりは、権威の前でも揺らぐことがなかった。

それは、驚きを超えた尊敬だった。



わたしたち家族は面白い家族だった。


あるとき、おとなしい父が珍しく「一家心中だー!!!」と叫んでいた。

母はテレビを見て大笑いしている。

わたしは、静かに本を読んでいる。

笑っている母と心中だと叫ぶ父とその間で冷静に本を読む自分の図は

ドラマよりも面白かった。


父が繰り返し母に向かって「心中だ~!」と言っても

「そんなこと言ってる暇があるなら1円でも稼いできな」と

座った眼で言いはなっていた。


わたしもこどものころから稼ぐこと、自分で考えることを

徹底的にやらされた。


そんな母の魂のチャートは太陽さそり座だったのを見て

すべてが腑に落ちた。

地上は太陽ふたご座。


母は「さそり座」系の家だ。またこれは次の機会に。



ずっと謎だったのが父と母の愛だ。


ふたりともよくモテた。

家には父と父の彼女、母と母の彼が家を出入りしていたこともある。

母はほかの人の子を妊娠したこともある。


わたしが12歳のときからずっと別居でもあった。

父はずっと召使い扱いされ、ばい菌扱いされ

それでも、ふたりは別れなかった。


父は母の最期を看取った。



母が旅だって初めて父のチャートも見てみた。

父の魂は太陽おうし座、月しし座だった。地上はふたご座。


わたしは、父を初めて見た気がした。


そして、ふたりが約束をしてきた魂だとわかった。

父と母はその約束を果たしたんだ。

形をさまざまに変えながら。



魂のチャートまで見たとき、

天のはからいは、

地上の考えをはるかにこえていることがわかった。



地上に現れる現象では、

はかりしれない魂のハタラキがある。

それは、壮大な愛の物語。





さそり座の満月。


この血に生まれたことをどれだけ呪っただろう。

そして、そうではない何かを追い求める原動力が母だったのだと思う。

それももう終わり。

終わったんだ。


受け継いだものはある。

大切にしていこうと思う。

母と父が与えてくれた揺らぎないもの。



母と父にささげたい。

わたしはあなたの子に生まれてよかった。

あなたはわたしの誇り。






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